こどもの頃から、季節になると母が作ってくれていた栗の渋皮煮。渋皮煮といえば、いつも栗むきで指を真っ黒にしていた母の手を思い出します。
渋皮煮は栗の蜜づけのように、栗だけを食べるのとは違って、一緒に煮つめられたやわらかく少しモチッとした渋皮の食感が独特で、ほくほくの栗と一緒にほおばると、特別な味わいがあります。
はじめてその作り方を知った時は、大変な手間ひまがかかることにとても驚きました。
栗の渋皮煮づくりの工程はざっくりいうと
- 渋皮を残し一番固い外側だけを取る鬼皮むき
- 灰汁抜き
- 渋皮の表面を整える
- シロップで煮つめる
と書き出してみると単純ですが、それぞれの工程にかなりの手間と時間がかかるので、トータルでほぼ2日間、その後しっかり味がしみ込んで食べ頃になるまで数日はかかります。
辰巳浜子さんの著書「娘につたえる私の味」がお手本
母が基本お手本にしているレシピは“いのちのスープ”で知られる辰巳芳子さんのお母様である辰巳浜子さんの「娘につたえる私の味」(婦人之友社/昭和44年・317頁)。
今ほど便利なものや食材もそろっていなかったであろう昭和の時代に、とてつもない愛と情熱でお料理に向きあわれていたことが伝わる素晴らしい料理本です。
母のバイブルでもあり、今ではすっかり色あせて、ボロボロになった本の「栗の渋皮煮」ページを読んでみると、このレシピが出来あがるまでになんと十余年かかっているそう!
京都からのいただきものだった栗の渋皮煮の味に感動し、いつか再現すると決めた辰巳浜子さんが、毎年毎年一人で工夫を重ね、遂に理想のレシピを完成させたのが十余年後だったとか。
昭和の母の愛と気がいを感じるお菓子
現在だと灰汁抜きといえば重曹ですが、辰巳さんのレシピでは米俵などを燃やした灰を使っていたそうで、他では代用できないほど重要な要素だったようです。
自分の母が作ってくれている栗は、もちろん重曹で灰汁抜きしたものですが、手間を惜しまず丁寧に作られた渋皮煮は本当においしく、特に渋皮煮ができあがるまでの工程を知ってからは、食べる時のありがたみもひとしおです。
栗の渋皮煮は、自分にとって季節を告げてくれるとともに、今より不自由な環境の中で、たくましく家族を支えてきた昭和のお母さんたちの愛を感じさせる特別なお菓子。
ちょっと背筋をのばしていただかなきゃという気持ちにも…。
今年もごちそうさまでした。来年もどうぞよろしくね!